研究最前線 〉 山本 章夫 教授

研究最前線

原子炉の炉心性能を高精度に予測する

世界最高水準の安全性と効率的な運用のため、マルチスケール空間で展開される複雑な物理現象を予測すべく、究極のマルチスケール・マルチフィジックスシミュレーションに挑んでいる。

教授 山本 章夫

原子力発電は、エネルギー供給と環境問題を両立させうる発電方法として、国内で約3割の電気を供給している基幹電源の一つである。 原子炉を安全かつ効率的に稼働させるためには、中性子を媒介とする核分裂の連鎖反応が発生している炉心の振る舞いを精緻に予測することが不可欠となる。核分裂反応は原子核という非常にミクロなスケールで発生する一方、最終的に予測すべき炉心のサイズはメートル単位のマクロなスケールであり、そのギャップは1015 オーダーにも及ぶ(マルチスケール)。このような広いスケールにわたる物理現象を直接扱うことは困難であり、そのシミュレーションにあたってはさまざまな工夫が必要とされる。また、冷却材の流れ、炉心で使用される燃料の発熱・除熱、機械的な振る舞いも安全評価において非常に重要である。したがって、物理的に全く異なった現象を同時に考慮する必要がある(マルチフィジックス)。つまり、原子炉の振る舞いを精度良く予測するためには、究極の「マルチスケール・マルチフィジックス」シミュレーションを追求する必要がある。 我々のグループでは、炉心シミュレーション手法を抜本的に精緻化するための研究に取り組んでいる。研究においては、原子炉で起こっている物理現象の本質を見抜く能力、その物理現象を数学的にモデル化する能力、数学的なモデルを効率よく計算する能力など、幅広い能力が必要とされるが、これは逆に、広い範囲の知識・技術に携わることができることをも示している。我々の研究成果は、現在稼働中の原子炉にも使用されており、研究を通じた社会貢献が可能である。

図 原子炉シミュレーションの概要