研究最前線 〉 柴田 理尋 教授

研究最前線

極限領域の未知なる原子核を探索する

理論では8000種以上存在する原子核だが、約3000種しか見つかっていない。大型加速器などを利用して極限領域の原子核を創り出し、放射線測定を通して未知なる世界を探索している。

教授 柴田 理尋

陽子と中性子の組み合わせからなる原子核(同位元素)は、理論によれば8000種以上存在すると予測されているが、地球上の物質を構成するのはわずか300種である。我々は20世紀初めに、その中のいくつかが放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)を放出しながら壊変する放射性同位元素であることをつきとめた。そして、放射線の測定から原子核の大きさは10-14 m程度であると言うことが解ったが、誰もその正体を見ていない。しかし、私たちは放射性同位元素を、医療をはじめとして多くの産業で利用し、 235U(ウラン235)を核エネルギー源として利用している。 放射線を測定すると、なぜ放射線が出るのか、原子核が何処まで存在するのかなどの疑問を解明することができる。現在、加速器や原子炉を利用して創製・探索された放射性同位元素は約3000種に及んでいる。理論的な予測には遠く及ばないが、新しい原子核を作って内部構造を解明することは、私たちの知らないとても有用な原子核を作り出せるかも知れない、という可能性も秘めている。また、放射性同位元素の基本的性質(「核データ」と呼ぶ)を外国に頼らず自分たちの手で精度良く測定し整備することは、核エネルギー開発の安全と信頼にもつながる。 大型の加速器・原子炉を利用して極限領域の原子核を創り出し、放射線測定を通して眼に見えない想像の世界を探索する。

図 (a) 約3000核種のチャート図.
図 (b) 京都大学の研究用原子炉.
図 (c) 全吸収型検出器で測定した163Euの崩壊に伴うスペクトル.
図 (d) オンライン同位体分離装置に取り付けた放射線測定器.