研究最前線 〉 中谷 真人 准教授

研究最前線

ナノ炭素材料を用いたユビキタス電源の開発

持続発展可能な社会構築のためには効率的なエネルギー変換が欠かせない。分子ナノテクノロジーを駆使して、低環境負荷のエネルギー変換素子の開発に取り組んでいる。

准教授 中谷 真人

『安全で持続発展可能な社会構築』は今日の科学・技術に課せられた最重要課題の一つです。中でも、高度情報化社会に遍在する情報処理・蓄積・通信システムの維持には膨大な電気エネルギーを必要とし、その消費量も日々増大する傾向にあるため、太陽光や廃熱等から効率的に電力変換するエネルギーシステムを開発し社会に広く普及させることが急務となっています。さらに、これらの基幹をなす次世代の光電変換素子や熱電変換素子には、従来よりも高性能であるだけでなく、低環境負荷でかつ自然界に豊富に存在する元素から構成されることも求められています。以上の課題に対して、我々は分子ナノテクノロジー・ナノサイエンスを駆使して取り組んでいます。 分子は機能を有する単位構造であるため、その複合化・集積化により高度な機能を有するナノメートルサイズの構造体を構築できます。特に、電子受容性および供与性の分子を適切に連結すると光誘起電荷分離機能を発現するため、これを利用した光電変換素子の開発に興味を持っています。光電変換の素過程(電子-正孔ペアの生成とその分離)には分子間相互作用や分子配列等の微視的要因が競合的に影響を及ぼすと予想されているものの、その詳細は未だ良く分かっていません。高性能エネルギー変換素子の実現へ資するために、光電変換の微視的機構の解明を走査トンネル顕微法/分光法を中心としたナノスケール計測とマクロスコッピクな光電変換測定を相補的に行いながら進めています(図2)。また、機能制御された低次元分子導体や低次元ナノ炭素材料(図1)を個体表面上へ規則配列させ、それを高性能熱電変換素子へ応用する研究も同時に進めています。 さらに、分子材料には機能・性質の異なる複数の状態(双安定状態)を有するものが多く、この特徴を利用した不揮発メモリ等の低消費電力素子を開発することにも興味を持っています。


図1 機能性分子材料およびナノ炭素材料の例


図2 光電変換の微視的機構の解明および光電変換機能を有するナノシステムの創製